こんにちは。
本文は、ポケモンダブルバトルの雨パーティを極めようと考察するものです。シングルダブル問わず新規勢がどんどん参入してくる時期なので、間違いがないよう最初に断りを入れていきます。
雨パを極めるためのポケモン論文、第二回は「雨パーティと格闘タイプの関係性」をテーマにします。本文を読み終えた時に、読者の皆様の格闘タイプを見る目が変わるように、気合を入れて書こうと思います。
また、この文は私の研究成果を残す目的で書いています。そのため、「手早くサラサラっと記事を流し読みたい!」「難しいことはよく分からない!」という方には向いてないかもしれません。果てしない文量なので、一気に目を通さず、2〜3日に分けて読むことをお勧めします。(なるべく分かりやすく書いたつもりではありますが…)
(サムネ用画像)
*以下常態
[目次]
はじめに
雨パーティは、格闘タイプの恩恵を大きく受けている。ピンとくる人こない人両方いるだろうが、雨と格闘はこれまでのポケモン対戦において、深い関係性を維持してきた。意図的であるにせよないにせよ、雨パを組む人は自ずと格闘技を求めていることが多い。
本論は、そんな格闘タイプと雨の関係性について、「なぜそう言えるのか」「どのような関係性の例があるのか」を明らかにし、更にこの関係がどのようにして成り立っているのかを深掘りして明らかにすることを主題としたものである。
<注意>
*格闘技(かくとうわざ)と読む。
*雨パに採用される格闘技を覚えたポケモンを、本論では「雨の格闘家」と呼ぶ。
*論題を想像しやすくするために、具体例→一般化の流れで、帰納的手法で本論を進めている。
*ポケモンアイコンをたくさん活用しているので、人によっては読みにくく感じるかもしれないが、ご容赦いただきたい。
第一章:雨パにおける格闘タイプの意義
勝てる雨パーティには、高確率でどこかしらに格闘技が採用されている。まずはその具体例を、世代に分けていくつか見てみよう。ただ、本来なら全てのプレイヤーが触れている現行ルールから取りかかりたいが、現行の雨パーティは開拓が進んでおらず、S1で結果を残した構築のポケモンも、格闘技をほとんど採用していないものばかりである。そのため、代表例を上げても伝わりにくいので、最後に回して細かい例としてまとめようと思う。
よって、8世代→7世代→9世代の順に扱う。
例1) ザシアンの聖なる剣/インファイト
8世代の覇者ザシアン。タイプ一致の技を等倍以下にしてくるガオガエンなどのポケモンに対し、格闘技を撃ち込むことができる。聖なる剣は相手の能力UP(ナットレイの鉄壁など)を無視できて反動もない点、インファイトは反動で耐久を落とすがタイプ不一致とは思えない高火力を叩き出せる点において優れている。
ザシアンは雨パーティとも相性抜群である。VGC2021では私が予選抜けを達成した雨ザシアンのアーキタイプが、
(vgc2021.雨雲の剣)
VGC2022ではトップメタ構築のカイオーガザシアンに、キングドラやガマゲロゲが採用された構築が存在した。私はボルトロスの睨みつけると組み合わせた速攻性を重視してインファイトを採用しているが、聖剣でも問題はない。雨ザシアンの格闘の主な役割対象はディアルガやナットレイであり、それらの防御バフを絡めた戦術に有効に働くからである。
例2) 気合玉Zボルトロス(トルネロス)
7世代で流行した限界雨には、雨乞いを覚えたボルトロスやトルネロスを採用した派生型が一定数見受けられた。
(誰かしらがUSUMレートで最終好成績だったはず)
限界雨に限った話ではないが、雨パに採用されるボルトロス(またはトルネロス)は、高確率で気合玉Z型であった。「電気(飛行)+格闘+強いサポーター」を全て揃えたハイブリッド型というわけだ。雨パの天敵と言われている(私はそうは思わないが)ナットレイを筆頭に、ガルーラスタン構築のガルーラやカミツルギ、トリル構築のカビゴン、たまに来るメガユキノオーなどに対して幅広く刺さる優れものである。
例3) 今作のいくつかの例
9世代において、私が使ったポケモンや他人の構築で目についたものをいくつかまとめる。
・フローゼルのけたぐり
などに有効(無振りに近いものは玉でワンパン)
カマスは紙耐久で倒しやすいと思うかもしれないが、中々侮れない。襷を持って雑にぶっ放してくる場合もある。すいすいポケモン最速のため、雨ミラーでも強い。
VGC2009チャンピオンが愛用していたことで有名なポケモン。特性の乾燥肌は、雨ターン中最大HPの1/8回復し続ける効果があり、すいすいではないが立派な雨戦士である。
格闘タイプを持つポケモンの中で、意外にも雨との相性が良い。その理由は以下の通りである。
1.草タイプであるため
2.催眠技を使えるため
1は、水タイプの処理に手間取る雨と攻撃面での補完が取れている。2は、どうしても構築上厳しい相手に対する誤魔化し性能の高さを意味する。突然テラスタルしてきて切り返そうとする相手の行動にも一貫して有効だ。
格闘技持ちでこの2要素を満たしているポケモンは、同タイプのヒスイドレディア、インファイトを覚えるアラブルタケくらいで、極めて相性が良いと言える。
・ハリテヤマ(テツノカイナ)のトリパ
ハリテヤマは、猫騙しでトリル始動を補助しながら、次のターンから根性による超火力で制圧することができる。雨トリル構築を組む際に最も優秀な格闘家と言える。
テツノカイナは、ハリテヤマと同様にトリルのプランをサポートできるアタッカーだが、水に強い電気タイプを持つ点が、差別化点であり大きな強みとなる。
私の場合は、ゲームプランに嵌めて勝つ戦い方が好成績を残していることが多いので、ハリテヤマと相性が良さそうである。
このような並びが海外大会で散見されるが、バランスの取れたいいパーティだと思う。と言いつつ一度も触っていないのだが、シリーズ2ではハリテヤマ(テツノカイナ)始動のスイッチ雨トリルも研究していきたい。
これらの中から、今回はドクロッグとキノガッサをピックアップし、型や性能を詳しく解説する。
ドクロッグ解説
特性:乾燥肌
持ち物:突撃チョッキ
性格:意地っ張り
テラスタイプ:悪
技:ダストシュート・瓦割り・猫騙し・不意打ち
数値:
161(20)-154(108)-87(12)-103(140)-134(228) *C抜け
調整:
[A] 猫騙し+ダストシュートで多少耐久に振ったユキノオーを雪補正込みで確1
[B] A特化ヘイラッシャの+2一丁上がりを余裕をもって耐える程度
[D]
C特化ニンフィアの眼鏡ハイパーボイスを乾燥肌の回復一回で2発確定耐え
C特化シャリタツの流星群を乾燥肌の回復と相手のCダウン込みで2発耐え
C特化グレンアルマの玉アーマーキャノンが低乱数1(18.7%)
無補正C252ユキノオーの大地の力を2発耐え
[S] 最速70族と同速(ここはもう少し早くても良さそう)
これは私の使っている型である。ドクロッグはただの格闘タイプにあらず。以下の点において雨とのシナジーがある。
1.乾燥肌
→回復することで絶妙に確定数がずれ、場持ちが良くなる。チョッキと合わせると、特殊アタッカーに対してとても強くなる。
2.毒タイプ
→雨が苦手な草タイプに強い。また、高耐久のフェアリーに強い点も、構築に噛み合っている。
3.壁展開に強い
9世代の壁戦術は、先発オーロンゲを採用したものだが、ドクロッグに瓦割りを採用すると、倒しながら壁を壊せる。雨の勢いを失速させて高種族値ポケモンで押す壁戦術に強い点においても、ドクロッグは優秀である。
4.寿司構築に強い
ヘイラッシャ以外の多くのポケモンに対して五分以上の戦いができる。寿司合体前の前半戦では、猫騙しをヘイラッシャに撃てる状況を作ることで、寿司構築特有の択ゲーを減らせる。
ヘイラッシャを何らかの専用対策(ゴルダックのクリアスモッグなど)を絡めて撃破できれば、残りのポケモン
との撃ち合いで勝てる。倒されてしまうセグレイブ、(ノーマルテラス)ウインディ・カイリューにも格闘で弱点を突けるため、一方的に不利ではない。
キラフロル・サーフゴーは、相手の技構成とテラスタル次第で決まる。例えば、大地の力持ちフロルには不利だが、「ジェム・ヘドロ・キラースピン・ニードル」のフロルには一方的に有利、といった具合である。よって、総じて五分といったところだろうか。また、(毒マスカーニャ含めて)撒かれた毒びしを消せるという強みもある。このように、現行の寿司構築に強い要素を持つポケモンなのだ。
5.他天候構築に強い
雨→言わずもがな。ペリッパーの暴風に気をつけつつ(そもそも耐えるが)、相手のすいすいエースを仕留めることができる。
晴れ→コータスの相方の葉緑素ポケモンに強い。スコヴィランは焼き払ってくるので、天候を取られないように注意が必要。
砂→バンギルガンをボコボコにする。バンギラスの飛行テラスタルを強制できるため、上手く飛行になるよう誘導して、カジリガメの餌食にしていた。
雪→チョッキで吹雪を耐え、弱点を突いて倒せる。テツノツツミにゴリ押される可能性があるが、水技を無効化する点を鑑みても有利と言えるし、このポケモンに強いことはこの先とても役立つ。
以上がドクロッグの強さである。これほどとは正直思っていなかったので、書いている私自身驚愕している。「雨の格闘家最強の男」の太鼓判を押したい。
話が脱線してしまったので、格闘技の話に戻ろう。
・壁構築を重く見るなら瓦割り(オススメ)
・より場持ちをよくしたいなら体力を回復できるドレインパンチ
・火力を重視するならけたぐりやインファイト
どれも魅力的な長所があるので、構築と相談して決めてよいだろう。
毒技は、毒突きだと威力が足りなくて意味がないため、ダストシュートが必須である。外して負けることが往々にしてあるが、これは我慢するしかない。例えば、「眼鏡ニンフィアを毒突きで倒せなかったので、ハイボを許してしまい、横が倒されました」「マリルリを毒突きで倒せなかったので、滅びの歌を決められてしまい、詰めきれず負けました」などが許されるだろうか?否、役割対象とする相手に役割を遂行されていては元も子もない。外し負けは覚悟してダストシュートを採用するべきである。
テラスタイプは悪。4倍弱点のエスパーを無効化し、ついでに不意打ちの威力も上がる。これにより、サーナイトに勝てたりグレンアルマとも殴り合えるようになる。アルマのテラスタイプは、「草・エスパー・悪」が代表的だが、全て弱点を突けるので、案外不利でもない。
変化技にも恵まれている。手助け・挑発・アンコール・ファストガードなど… 何でもできるのだろうか?
不覚にも語りすぎてしまったが、ドクロッグの説明は以上である。
キノガッサ解説
特性:テクニシャン
持ち物:拘りスカーフ
性格:陽気
テラスタイプ:鋼
技:タネマシンガン・インファイト・キノコの胞子・岩石封じ
数値:
158(180)-159(68)-101(4)-81(4)-134(252)
*C抜け
調整
B:A特化鉢巻カイリューのノーマルテラスタル神速を高乱数耐え(12.5%)
先発に出して盤面をコントロールする型。なぜか初見で見抜かれないので、意表を突いて一気に試合を有利に運ぶことも多かった。型が分かっていても、このポケモンが作るゲームプランを咎めることは難しいため、依然として試合を有利に進めることができる。
例えば、私はサーフゴーと組み合わせて使っていた。ゴールドラッシュを通すサポートをするというわけである。立ち回りのパターンは主に3〜5つある。
1.インファイト+ゴルドラ
ゴルドラを半減してくる相手の鋼にインファを打ち込み、圏内に入れる。
2.タネマシンガン+ゴルドラ
同じく水タイプを大きく削ってゴルドラ圏内に入れる。
3.岩石封じ+ゴルドラ
サーフゴーを倒せる高速アタッカー、例えばマスカーニャなどに対して、上から岩封で襷を剥がしつつ行動順を操作し、先にゴルドラをぶち込む。カイリューのマルスケやミミッキュの化けの皮を剥がす際にも大変有効である。
4.岩石封じ+シャドーボール
サーフゴーミラーで使用する。行動順を明確にし、確実に敵のサーフを仕留める。ただ、構築にヤミカラスがいると一方的にやられるので、この出し方はしない。
5.キノコの胞子+ゴルドラ
上記の立ち回りではどうにもできない相手や、再戦でこちらの動きに対して交換などでケアを行う相手に使用する。草タイプや一部の催眠耐性キャラ以外の全てに一貫するため、相手はスカーフガッサに全て止められてしまう。長期的に見ると攻撃するよりも有効な選択であることが多い。
このように、隣の強力なポケモンと連携する時に、「胞子・マッハパンチ・草技・守る」の一般的な襷ガッサよりも仕事ができる。"何より"意表が突けるのではなく、意表を突いた先に展開できるものが多い戦術である。
テラスタイプは、飛行やエスパーを受けるために鋼。猫騙し+αで縛られている時にも、鋼テラスで耐えてさえしまえば、後はどうとでもなることが多かった。
キノガッサの説明は以上である。
強い格闘家たちの共通点
これらの雨パに採用される「格闘家」たちに、何か共通点はあるだろうか。その答えは、「格闘以外のタイプが対雨ポケモンに強い」ということである。多くの優秀な格闘家は、水タイプを半減してくるタイプに弱点を突けるタイプを有している。
→水に強い草
→水に強い電気
→水に強い電気
→草とフェアリーに強い毒
→草に強い飛行
→ドラゴンに強いフェアリー
この格闘以外のタイプは、構築内でどの程度活躍できるかの一つの指標となる。
第二章:対戦環境と雨の格闘家の関係
雨パに採用されるポケモンの格闘技が様々な局面で刺さるという事実は、いつの時代も共通している。
→「格闘技が刺さる」を言い換えると、雨パが水技(又はアタッカーのもう一つのタイプ技)で処理することが困難なポケモンに対し、格闘技が代わりの決め手になっている(=一撃で倒せる)、という状況を指す。
→では、そのような「処理するのが困難なポケモンたち」とは、具体的に誰のことだろうか。一度タイプ別に整理し、共通点を見出してみよう。
対雨&格闘弱点ポケモンまとめ
・水技に耐性を持ち、雨の弱点を突けて、格闘タイプを苦手とするポケモン
・水は等倍だが、こちらからは倒しきれずに切り返されてしまう、同じく格闘弱点のポケモン(一部水2倍以上の例外あり)
を扱う。
*世代別には分けず、伝説のポケモンも含める。
*かなりマイナーなポケモンや特別雨に強いわけではないポケモン(ルガルガンやウーラオスなど)は省く。
<ノーマル>
()
種族値が高く、超火力を叩き出せる者、いやらしいサポートをする者、ノー天気の使い手など、層が厚い。こちらの格闘の有無で試合展開が最も変化するタイプだろう。
<炎>
本来雨で容易に倒せるため、ここにカウントしたくはなかったが、試合展開の構造上、雨パ側が炎タイプを重く感じる現象もあるため、あえてカウントした。
<水>
5世代ではトドゼルガの、8世代ではラプラスの全盛期の時代があった。
<草>
戦い方は多彩だが、その多くは攻撃力は高い。
<電気>
頑丈や襷などで行動補償があり、高火力電気技や麻痺で甚大な被害を与えてくるという特徴がある。
<氷>
フリーズドライの存在が大きい。天候を書き換えてくる者もいるので、等倍でもカウントしている。最も雨パに仇なすタイプと言えるだろう。種族値の平均値もかなり高い。
<地面>
このポケモンだけは話が別。ただ倒せないだけでなく、場に特攻デバフを仕掛けてくる点もいやらしい。
<岩>
倒すのは簡単だが、特殊な能力で雨パを追い詰めてくるキャラが多い。よって、同じく水が等倍以下のポケモンもカウントしている。
<ドラゴン>
必ずしも弱点を突かれるわけではないが、種族値の高さと技範囲の広さで全てを解決してくる。
<悪>
()
皆種族値が高いのは他タイプ同様だが、デバフ行動ができるものが多い点は、悪タイプ特有のものだろう。
<鋼>
()
種族値が高い(4回目)。積み技により要塞化し、手がつけられなくなるポケモンが多い。
*レジスチルはVGC2021にて鉄壁型が流行していた(本戦にて選手によるあからさまなメタが施されるレベル)
私は、これらのポケモンを3種類に大別可能だと考える。
1.水タイプ(雨)に弱点を突けるポケモン
3.天候に干渉できるポケモン
に分ける。少し考えれば気づきそうなことなので「そりゃそうじゃ」と言われるかもしれないが、順に説明していく。
1.対雨ポケモン
など、水タイプをほぼ一撃で倒せる共通点がある。「雨対策枠」と呼ばれるものだけでなく、「サーフゴーは10万ボルトを覚える」など、技は不一致だが水に有効打を持つポケモンも同様である。勿論種族値も高いが、1はタイプ相性を駆使して攻撃を仕掛けてくる。
2.高種族値ポケモン
など、1のようなタイプ上の相関はほとんどないが、圧倒的な耐久や攻撃力で雨と渡り合える力を持つ、という共通点がある。これらを中心に、スタン系構築が構成されることが多い。など、積んだり単純な数値受けをしてくるタイプのポケモンもいる。
3.天候干渉ポケモン
は、こちらの天候によるパワーアップを妨げる共通点を持つ。天候を奪われることによって、元々タイプ上有利な岩タイプでも平等な相性になってしまうため、結局単純な殴り合いに持ち込まれて種族値の差で負けることは珍しくない。
この3種類の区分のうち、ポイントとなるのはパターン2であると考える。なぜなら、2に区分されるポケモンは、スタンダード構築の中心に位置することが多いからだ。これらのポケモンは、構築の要として積極的に選出される。その例として、7世代のガルーラスタンを用いて考察してみよう。
まずはメガガルーラを軸に構築が決まる。
↓
補完となる高数値のポケモンが加わる。この内格闘が弱点のポケモンは、
などである。何れも構築に入る可能性は十分にあり得るが、特にヒードランとカミツルギが入りがちだ。
*ズルズキンは6世代に、特にトリプルバトルに多くいた記憶がある。
また、格闘を半減以下にするポケモンは、
辺りが一般的だろう。
これらからなる相手の構築において、構築軸であるガルーラは残しつつ、雨パーティに対して積極的に選出したいポケモンを想定すると、
-()--/()
となる。水で倒される可能性をなるべく廃し、パワー負けや盤面を取られる展開もさせない、隙のない選出である。
この選出を雨側にとっての最悪の選出、つまり相手側の最善の選出「A1」とする。そして、A1をベースとした相手の構築・選出パターンに対して、格闘技がどの程度通るのかを検証する。
格闘一貫率の導入
ここで、格闘技がどの程度相手の構築に通るかを「格闘一貫率」という造語を用いて数値化する。例えば、明確な一つの選出につき、格闘弱点のポケモンが1体いれば、選出の1/4に格闘が通るため、「格闘一貫率25%」と表す。構築6体のうち1体格闘弱点がいれば、通りは1/6なので「格闘一貫率16.7%(小数第二位繰上げ)」と表す。
注意しなければならないのは、構築全体での数値と実際の選出の数値が異なることだ。例えば、格闘弱点が1体で16.7%だとしても、そのポケモンが選出されるという確証がなければ、実際の一貫率は0%、その試合において格闘技は意味を成さなくなる。これを認識した上で、相手の最善の選出を、より正確に具体的に見積もる必要がある。こちらにとって最も都合の悪い選出を想定しておけば、実際の選出が予測と違っても、困るどころか有利になるため問題ないだろう。(あるいは格闘一貫率も上がる)
また、この格闘一貫率は、最低でも相手の半数以上に通れば格闘タイプとして効力を発揮しているため、50%以上を高い(満足値)、未満を低いと定義する。
格闘一貫率
・構築や選出での格闘技の通りを数値化したもの。
・構築全体での率とその時の選出での率を分けて見る必要がある。
・格闘一貫率50%以上を高いものとする。
以上を踏まえて、具体例を用いながら格闘一貫率の度合いを考察する。
例1:gen7ガルーラスタン
こちらの構築
格闘枠:(毒突きは無い)
があるとする。
対する相手の構築全体
への格闘一貫率は、3/6なので50%。
A1:
に対しては、ガルーラとカミツルギが格闘を弱点としているため、格闘一貫率は1/2で、同様に50%である。
相手は、クレセリアを盤面調整の基軸にしつつ、カプレヒレとカミツルギを上手く通すことを目標にする。ガオガエンが重めだが、レヒレの水Zやツルギの聖剣、ガルーラの圏内に入れてゴリ押しするなどで対処できる。ただし、雨に対しては最善と思われる選出でも、ナットレイに対してやや手薄なので、ここに選出を変える余地が生まれる。
本題に戻り、この相手に対して雨と格闘がどのように機能するか、「キングドラやジャラランガを出すかどうか」を考察する。
結論から述べると、少なくともキングドラはほぼ出せない。こちらの構築がどう変わろうが、「レヒレ+ツルギ+サポートポケモン」の構図は変わらず選出される。そして、キングドラはレヒレの攻撃をチョッキやHDでもない限り耐えることができない。トリルを許すかワンパンされるかの理不尽な択を常に強いられているので、雨エースがキングドラのみの場合は、雨選出の強みはどうしても低くなってしまう。
一方で、ジャラランガにはまだ選出の余地がある。一度専用Zを撃てればレヒレクレセ以外の全員と有利に戦えるからだ。構築全体の格闘一貫率が50%なのに対し、ランドロスにも比較的強く、クレセにもゴリ押しが効くため、実際に見込める仕事量はおよそ4.3/6、71.7%程度だと考えられる。(4.3/6はあくまで私の体感)
しかし、試合中に常にレヒレに怯える展開が続き、一度瞑想を積まれると「隣の守る+ムーンフォース」で簡単に切り返されてしまう。この影響により、最終的な仕事量は71.7%→50〜60%程度に落ち着いてしまうだろう。
よって、こちらの選出は、
確定:(呪いナットならより安定)
準確定:(ツルギに撃てる暴風、火傷の期待ができるガルへの熱湯、ランドやドランへの牽制)
選択枠:/(ジャラはレヒレ以外に強いので気持ち出したい、ボルトは挑発があればテンポを取れるので優先順位↑だがガルーラがキツい)
暫定:
がひとまず安定している。ガエンでサポートしつつナットを上手く通すことができれば、こちらが有利なマッチングである。
互いの選出が固まったところで、別の選出の可能性を考える。相手はナットが重く、グドラが出てくる可能性も低いと認識している。よって、ガルーラかクレセリアをヒードランに変更する可能性が出てくる。ドランはガエン+ナットの並びに強く、初手で出し勝てばそのままテンポを掴めるポケモンだ。クレセでサポートをしながら先に身代りを張ってしまえば、ペリにの前でも動かしてガエンナットに圧をかけることができる。
よって、
A2:(50%)
A3:(75%)
と選出が変わる場合がある。盤面操作の要であるクレセを残すのが基本だと思うが、高火力捨て身によってペリの処理速度が上がる利点があったり、クレセ抜きでも勝てるとプレイングに自信がある人もいることから、ガルーラを残す可能性もなくはない。
このように選出が変わると、A3(3/4→75%)のように、場合によっては格闘一貫率が上昇する現象が起こり、格闘というタイプの需要が更に高まる。A1をベースとしつつ、A1〜3までの可能性を想定すると、構築全体の格闘一貫率50%に対して、実際の格闘一貫率は50〜75%を保っているのである。
ただし、自信を持って格闘タイプのジャラランガを選出すればいいかと言われると、そうではない。キングドラを出せない理由と同様に、ジャラランガもまたレヒレに大きく行動を制限されているという問題が残るためである。これは、ジャラランガがフェアリーを弱点とすることが原因だ。要するに、レヒレに無化抵抗な格闘タイプのポケモンでは、この構築に格闘として安定した役割を持つことが難しい。よって、ジャラランガは別のポケモンに変える必要がある。
レヒレに打点を持つ格闘タイプで候補に上がるのは、1章で紹介したや、メガルカリオ、毒突きを覚えたチョッキマッシブーンなどもあり得る。
しかし、これらよりも良い改善方法が存在する。同じく1章で紹介したボルトロスの格闘Z型への変更だ。
本来化身ボルトロスは、構築内でサポーターの役割をこなす。6世代なら「電磁波+威張る」、8世代なら「怪電波」といった優秀な技を、「悪戯心」による先制で使用できる。雨パにおいては、天候の取り合いに勝てる「雨乞い」や、トリルを止める「挑発」などに需要が生まれる。
本章での雨ボルトロスの最初の技構成は、一般に想起されるだろう、「雷or10万ボルト/雨乞い/挑発/守る」からなるものである。この型は、トリルを止め、レヒレの弱点を突いて圧力をかけるという役割において、選出の余地が生まれる。
しかし、せっかく格闘一貫率が高い選出をせざるを得ない構築と相対しているのなら、ジャラランガを選出しなくても、打点として格闘は残したい。そこで、ボルトに気合玉を覚えさせ、ガルーラやツルギ、ドランにも役割を持たせることで、相手の選出の3.2/4(クレセに有利ではないが挑発は刺さるため+0.2)に強くしようというわけである。
このように、「有名な構築の選出を予測→格闘一貫率を見積もる」ことにより、どんなポケモンに格闘技を与えるのが効果的か(あるいは格闘持ちを選出するかどうか)が分かる。そして、対雨ポケモンへの対抗になるタイプと格闘を合わせ持ったポケモンが、相手の手持ちの多くの行動を制限することにより、盤面に余裕が生まれ、なるべく相手の行動に左右されない「支配的な行動選択」が取りやすくなる。
まとめると、格闘一貫率は、
1.構築の中心となる高種族値ポケモンの多くは、偶然にも格闘で弱点を突ける傾向がある。
2.構築の補完として、雨を対策できるタイプを持つポケモンがいくつか入ってくるが、それらにも大方格闘が等倍以上で刺さる。(あるいは草などの格闘ではない方のタイプで大抵弱点を突ける)
3.結果、相手の雨パに対する選出は、「格闘家」にとって有利なポケモンで似通ってしまい、格闘家を選出している雨パ側が有利な試合を展開できる。
という流れで、雨パーティに対する相手の選出で高数値を記録する。
例2:旋律ラプラス構築
8世代のVGC2020〜21に台頭した、ラプラスのキョダイセンリツを軸に超高耐久のポケモンたちで少しずつ盤面を詰めていく(単純なビートダウンができる軸と共生している)構築だ。
(66.7%)
このような並びが雨に対抗する選出は、
B1: or(75%)
B2:or (50%)
となり、いずれも高い格闘一貫率を維持している。ラプラスを出さない意味があまりないため、B1の選出が一般的だろう。ただ、この世代においては、ダイマックスとサイドチェンジの存在が格闘一貫率を大きく誤魔化してしまい、ポケモン本来のゲーム性が失われていた。しかし、理論上は格闘の重要性が高く、例えば当時活躍したローブシンを採用していれば、雨に滅法強いこの構築に対して互角以上に戦えたことは間違いない。
例3:寿司構築
今作最大のアーキタイプである寿司構築は、(格闘一貫率の高くない並びも少なからずあるが)一貫率が高くなる選出が比較的されやすい印象がある。
C1:(50〜60%)
→(50〜60%)
選出は人によるので断定はできないが、このような並びでこのような選出を何度もされた。ヘイラッシャが鋼テラスタルだと、更に格闘の通りは良くなる。
C2:(33.4〜40%)
→(50〜60%)
砂+寿司の組み合わせ。(雪パターンもある)バンギルガンを選出してくることが多く、ヘイラッシャやサーフゴーも鋼テラスの可能性があるため、実際の選出では格闘一貫率が高い。
カイリューやフェアリータイプが入った寿司には一貫率は下がるが、格闘が通る選出をしてくれる相手が謎に多く、「ラッシャ倒れたら誰でドクロッグ倒すんだよ」と言いながら対戦していた。
例外
これは雨パーティならではの現象である。別の構築では絞り込み辛い相手の選出も、雨だからこそ特定できるからだ。例えば、私が7世代で愛用していた雨以外のパーティは以下の通りだが、
これに対する例1のガルーラスタン側の選出は、
(25%)
か、それに近いものが安定している。カミツルギを出す必要性があまりにも薄いため、格闘一貫率は25%と低い。仮にリザードンに気合玉を仕込んでいたとして、ヒードランに上手くヒットさせるのは難しいだろう。
このように、雨以外の構築では安定した高い格闘一貫率が見込めないため、格闘の重要性が薄れる。格闘一貫率は、雨パならではの概念と言えるだろう。
また、格闘一貫率が低いスタンダード構築もあるため、格闘一貫率が全てのスタンに当てはまらないのではないかという意見もあるかもしれない。その例として、7世代のテテフグロス構築を見てみよう。
(16.7%)
格闘の活きる場面は丁度バンギラスが出てきた時のみ。ここまで格闘というタイプが通らないアーキタイプも珍しい。どの選出をされても一貫率は低いままだろう。
しかし、この構築は、トリトドンさえどうにかすれば、基本の雨コンボと付随する鋼タイプの補完ポケモンの範囲で勝ててしまう。
()
のように選出してしまえば、基本的に有利を取れるので問題ないだろう。
つまり、格闘一貫率が低いスタン構築は、雨への耐性が低いため、そもそも勝てる相手であるというわけである。格闘一貫率とは、あくまで対雨要素の強い構築への強い対抗馬を編み出す助けとなる概念なので、仮に一貫率の低い相手の構築と当たっても、問題になるどころか寧ろチャンスなのだ。
結論
・雨パは格闘タイプと相性が良く、高いシナジーを持った「格闘家」が、強い構築には選出されている。
・優秀な「格闘家」の条件は、格闘以外のタイプが雨パに耐性を持つポケモンの弱点を突けるか(ドクロッグの毒タイプなど)が大半を占める。
・環境の中心に位置する高種族値ポケモン、及び雨パを対策できるポケモンや、他天候ポケモンの多くは、格闘タイプを弱点としている。
・それらが一つの構築にまとまり、雨パに対して選出されることが多いので、格闘家に弱い選出が出来上がる。
・格闘というタイプを有効活用した、勝率の高い立ち回りのできる構築を作るために、格闘一貫率という概念が役に立つ。格闘の通りと選出全体に対する通りを両立できるポケモンを考察することが重要である。これは雨パーティならではの考え方である。
おわりに
雨パーティが格闘タイプの恩恵を受けるメカニズムを説明できたかと思う。この理論は、少し乱暴に言い換えれば、「スタン構築や砂・雪天候が消えない限り、雨の格闘家は強くあり続ける」となり、雨パの中だけではない、ポケモン対戦の歴史に根付いたものだと考えられる。
今回格闘に焦点を置いて考察したように、ポケモン対戦の構築の成り立ちや、試合中のプレイヤーの心理などから何かを一般化しようとする試みは、ポケモン対戦をメタ視点で構造的に理解する、非常に意義のある行為ではないかと思う。今回の格闘タイプをきっかけにして、今後もたくさんのことに考察の目を向け、構築力を向上させたい。
ここまでお読みいただきありがとうございました。長々と説明しましたが、書ききれない部分もあったり、分かりづらい表現になっているかもしれませんので、少しでも読みやすくまとめられるように今後も精進します。「ここガバガバすぎ」「この部分要らなくない?」などの意見や質問は個別に受け付けるので、DMやリプ欄へどうぞ。
次回は「ニョロトノとペリッパーについて」か「雨パの選出が炎タイプを苦手としてしまう逆転現象」について書く予定でいます。